ヤノベケンジのトらやんが私たちに教えてくれること

ギャラリー・アット・ラムフロム・オンラインより、本日は、ヤノベケンジの絵本『トらやんの大冒険』から生まれた、作家自らが手彩色を施したリトグラフ作品『絵本を読むトらやん』をご紹介します。

今年、世界は2つの大きな人災に見舞われました。ひとつは今年4月にアメリカで起きたメキシコ湾沖の原油流出事故。そしてもうひとつは最近ハンガリーで起きた有毒汚泥流出事故です。

原油流出事故が起きた当初は、原油で黒く染まった海岸やその原油にまみれて動けなくなった鳥たちの映像をTVでよく見かけましたが、最近では全く見なくなりました。ハンガリーでの事故は起きたばかりなのでまだ時々見かけますが、じきに見かけなくなるでしょう。何故なら日本にとっては遠い国の話しであり、直接的な被害がないことだからです。何処で読んだのか忘れてしまいましたが、そもそも日本人はこういった海外の事故に関するニュースというのにあまり興味を持たず、よってTVや新聞は続報を長々と報道してもお金にならないため、あっという間にそういったニュースを流さなくなるんだそうです。つまり、歴史に残る大災害のその後や事故に隠された真実を私たちが知ることが出来ないのは、私たち自身にも・・・いえ、私たち自身に責任があるということです。でも、普段の私たちはそういったことを意識もせず生活をしていて・・・。

今日ご紹介したいリトグラフは、そんな私に「それでは駄目なのだ」ということを思い出させてくれた作品です。

自ら知るための行動を起こしたヤノベケンジが生み出したもの

現代アーティストのヤノベケンジは、1986年4月に史上最悪の原子力事故が起きたチェルノブイリの高放射能汚染区域へ事故後約10年が経った97年に赴いています。そして多くの日本人が知らない、知ろうとしないチェルノブイリ後の現実を知って、衝撃を受けるのです。

作品を作り発表を続けた行為は、あの日出会ってしまった人々への答えを求めるあがきみたいなものである。

これは後述するヤノベケンジの絵本のあとがきからの抜粋です。事故から10年が経ったにも関わらず未だ居住禁止の高放射能汚染区域で生活する人々との出会いに強い衝撃を受けたヤノベケンジは、それまでの「アートで社会問題を提示する」という自らの活動が、安っぽい正義感と浮ついた功名心にとらわれていたことを悟り、以降、その衝撃を彼のアート活動の原動力とした作品を作り始めるのですが、その代表的な作品シリーズが「トらやん」という、一見ユニークなキャラクターをモチーフにした作品シリーズです。

ヤノベケンジ:トらやんの大冒険/絵本を読むトらやんトらやんは、ヤノベケンジの父親がモデルの腹話術人形に、彼の子供のために作ったという放射線を遮断するアトムスーツを着せたキャラクターです。チェルノブイリから帰国以降、それまでの彼のテーマであった「サバイバル(生き残り)」を「リバイバル(再生)」へと変更、そうしてこのトらやんをモチーフにした数々の作品を発表して行くのですが、2007年にトらやんを主人公にした初の絵本『トらやんの大冒険(写真上)』を発表。その内容は、未来ある子供たちのみならず、その子供たちを守り導かなければならない大人たちにも向けたものとなっており、チェルノブイリという背景を知らずして読む場合と知って読む場合で受ける印象が変わるストーリーとなっています。今回絵本の詳しい話しは割愛させて頂くとして、そして私がご紹介したいのが、その絵本の原画を元にしたリトグラフ作品『絵本を読むトらやん(写真下)』なのです。

このリトグラフ『絵本を読むトらやん』は、ヤノベケンジ本人による手彩色が施されており、エディションも50と少数なことから、かなり貴重な作品といえます(サインも有り)。このシーンが絵本のどのような場面のものなのかは、ストーリー同様あえてここでは語らないでおきますが、誰にもとても暖かい印象を与えるシーンの絵ではないかと思います。トらやんの笑顔もとてもかわいらしくほのぼのとしていて、私自身見ているととても和みます。ただ、あのチェルノブイリの事故を知っている私にとって、ある意味トらやんは心にずっしりと来る存在であり、たまに見るとずきっとするのです。「知らないということ」は決して罪なことではありませんが、「知ろうとしないこと」を自分がしていたと気づいた時には、自分の中にある種の罪悪感が生まれます。私はアートに、時々こんなふうに自らを試されていると感じことがあるのですが、この作品もそんなアートだったりします。あなたは如何ですか? そういうアートに出会ったことはありますか?

 

今日は作品を紹介するというよりも、自分について語るような内容になってしまいましたが、私と同じように感じることがあるという方、一度是非この作品をご覧になって頂きたいと切に思います。如何でしょうか。

この作品を含む、ヤノベケンジ作品の詳細は、現代アート作品を気軽に通販で購入出来る、ギャラリー・アット・ラムフロム・オンライン内の以下のページにてご覧頂けます。また、作品を直接ご覧になりたい方は、リアルギャラリーへ直接お問い合わせ下さい。